【相続税法】最判令和4年4月19日
- Shunsuke Omura
- 2022年4月21日
- 読了時間: 3分
最高裁で,財産評価基本通達6項に関する初判断が出ました。
簡単にまとめると,以下のような判断をしています。
・相続税法は「時価」といっており,財産評価基本通達は法律ではなく行政機関内の指示に過ぎないので,更正処分に係る課税価格が時価を上回らない限り相続税法22条違反にはあたらない。
・しかし通達を恣意的に適用したり適用しなかったりすることは,平等原則に違反し違法。通達を用いない場合は合理的理由が必要。
・「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」には、合理的な理由が認められる。
・本件の通達評価額と鑑定評価額には大きな乖離があるが,それだけでは租税負担の公平に反するとまではいえない。
・もっとも,本件購入・借入れがなければ課税価格は6億円だったのに,本件購入・借入れによってゼロになった。また近い将来相続が発生することを見越してあえて租税回避目的で行った。
・このような事情の下では,本件購入・借入れを行わなかった他の納税者との間で実質的な租税負担の公平に反する
・よって,通達を適用しなくとも平等原則に違反しない。
このような判断の枠組み自体は,行政法の解釈手法に沿ったオーソドックスなものです。
平等原則違反にあたらないためには合理的理由が必要というところの判断は,①個々の物件の購入・借入れという行為が課税価格に与えた客観的影響と,②租税回避目的かという主観面で評価する,というのが最高裁が明示したこの類例に関する具体的な判断基準で,今後の裁判実務はこれに従うことになります。
ただ,納税者にとって十分な予測可能性を担保するものとは言い難く,また①と②の関係が独立なのか相対なのかなど,今後の類似の事例についてどのような影響が出るかを正確に見通すことはできません。
それでも,国税庁からすれば,「借入れ」も含めて課税価格への影響を考慮することや,相続発生3年半前の購入物件まで考慮に入れてもよいことについて,最高裁からお墨付きを与えられたことになります。
他方で,本件の通達評価額3.3億円と鑑定評価額12.7億円という乖離それだけでは,租税負担の公平に反するとまではいえないとした点も注目すべき点で,評価額が4分の1に圧縮される程度で「借入れ」がなければ違法とされていた可能性が高いです。
税理士による申告実務がどう変化するかは要注目です。
都内タワマンが相続財産に含まれる場合に,通達に沿って路線価/固定資産税評価でいくと否認リスクがある一方,最初から鑑定評価を取って申告すると,「払わなくてよい相続税を払わされた」として税理士が納税者から損害賠償を請求されるリスクもあります。
税理士の先生方にとっては,判決日以降の実務に直ちに影響する部分なので,どのようなケースで通達に沿って行い,どのようなケースで鑑定評価を勧めるか,早急な実務指針の見直しが迫られているものと思います。
判決の全文は以下で公開されています。
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